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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)150号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二、第三号証及び第五、第六号証によれば、本願明細書には、「洗液としてトリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等の水溶性液体を、とくに双方が共沸混合物を形成するような割合で添加して使用することは特公昭四九―三六八六七号及び特開昭四九―一〇一九五五号に記載されている」(本願明細書第四頁第一四行ないし第二〇行)が、「この種の洗液を使用する洗滌脱水装置は、物品を浸漬して水を除去するための脱水槽、この脱水槽から溢流させた除去された水を含む洗液を、比重差によつて層分離させ、上層の水相を溢流管によつて取除く水分離槽、及び水分離槽で水を分離された洗液を前記脱水槽へ循環させる手段から基本的に構成されているが、洗液が水溶性液体を含む場合、物品から分離された水は当然この水溶性液体を溶解して含有するため、水分離槽では水ばかりでなく洗液の成分である水溶性液体も分離され取除かれてしまう」(同第五頁第六行ないし第一六行、昭和六〇年三月一一日付補正書第三頁第一六行ないし第一八行)との知見に基づき、「本発明者らは、この場合、水分離槽で分離した水をそのまま排水せず精留装置に導入し、こゝで水溶性液体を精留により分離して脱水槽又は水分離槽へ戻せば、前記液組成の変動という問題が解決されることを見出している(特願昭五三―一四四六二七号)。この先願方法を、装置縦断面模式図である第1図によつて説明すると、(中略)精留装置(4)内では排水に溶解して含まれていた水溶性液体は水と分離され、管(5)により脱水槽及び水分離槽の上部空間又はこれら液中へ、蒸気として又は液体で返還され、一方溶解して含まれた水溶性液体が除却された水は水取出管(6)より排出される。水分離槽で水を分離した洗液は貯槽(7)へいつたん貯えられるが、(中略)脱水槽(1)に送られる。(中略)脱水槽には加熱器(10)が設けられており、加熱器で加熱されることにより洗液蒸気が発生するが、この蒸気は脱水槽及び水分離槽上の連通空間(11)を常に満たしている。(中略)空間(11)は大気と連通しているので、洗液蒸気の大気中への逸散を防止するため、この連通経路に冷却器(12)が設けられ、洗液蒸気はここで冷却液化される。液化された洗液は脱水槽(1)又は水分離槽(2)へ返戻される」(本願明細書第五頁第一七行ないし第七頁第一二行、前記補正書第三頁第一九行ないし第四頁第四行、昭和五四年五月一〇日付け手続補正書第四頁第一行ないし第九行)が、「本発明は以上の第1図に示す如く装置による物品の洗浄脱水方法について、さらに検討を加えた結果完成されたものである。」(本願明細書第七頁第一七行ないし第一九行)と記載されていることが認められる。

右記載事項によれば、本願発明は、洗液としてトリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等の水溶性液体を、とくに双方が共沸混合物を形成するような割合で添加して使用する公知の脱水洗浄方法(昭和四九年特許出願公告第三六八六七号、昭和四九年特許出願公開第一〇一九五五号、後者が本件の引用例である。)において、洗浄対象物品から取り除かれた水に溶解随伴されて系外に排出されていた洗液中の水溶性液体、すなわちアルコールを精留装置によつて回収して循環使用することを可能ならしめた先願発明(昭和五三年特許願第一四四六二七号)を、さらに改良、発展させることを技術的課題(目的)とするものであり、前掲甲第二、第三号証、第五、第六号証によれば、本願発明は、右技術的課題を解決するために、特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成を採用し、右「構成により、付着水を有する物品の洗滌脱水を、洗液組成の変化なく長時間安定かつ安全に行うことができる。」(本願明細書第一四頁第一九行ないし第一五頁第一行)という作用効果を奏するものと認められる。

2 原告は、審決は、引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願発明と引用例記載のものとは、本願発明の要旨とする構成事項(a)、(b)、(c)において一致すると誤つて認定した旨主張するので、まず右構成事項(b)について検討する。

引用例に審決の理由の要点2摘示の記載及び図示が存することは当事者間に争いがなく、審決の理由の要点3によれば、審決は、引用例における「水分離液だめ4に集積する溶媒と水とは二つの層に分離し、重い方の層は底に沈む。上方の水の層はオーバフロー・パイプ6を経て引出され乾燥機10を通過し次いでパイプ11を経て貯槽9に流入する。貯槽9から液状溶媒はポンプ12によりパイプ13を経て脱水液だめ2に圧送される。」(第八頁右下欄第一四行ないし第九頁左上欄第五行、以下右記載を「審決摘示の記載部分」という。)との記載が説明している水分離液だめ4における分離操作の内容は、本願発明における「水分離槽において分離されたアルコールを溶解含有する水から、アルコールを分離し、これを脱水域に返戻する」という操作に該当すると認定していることが明らかである。

そこで、引用例記載の技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例には、「非吸収性物品から液体を排除する方法および装置」に係る発明に関して、「水を含んだ非吸収性物品を乾燥する装置とこの装置を利用してこの種物品を乾燥する方法」、「熱感物品の表面から水分を取除く新規な方法と装置」、及び「互いに接触している表面を有する複数の物品からかまたは比較的に手の届きにくい表面を有する別々にした物品から液体、特に水を取除く方法と装置」を提供することを目的とすること(第二頁右下欄第一三行ないし第三頁左上欄第一一行)に加えて、「本発明の方法は、液体を含んだ表面を有する物品をこの液体とは異なる濃度を有し中で液体が重量にして約〇・〇〇一ないし五%の範囲内で可溶である溶媒の浴中に浸漬しこの浴を激しく攪拌して浴内に騒流を生起させそれにより物品から液体を分離し、分離された液体と溶媒とを直接分離帯域に移送し、この帯域において液体と溶媒とを二つの相に分離させ、分離帯域において一つの相として集積する液体を当該系統から分離し、当該系統から分離帯域において他の相として集積する溶媒を取出し、分離帯域から取出された溶媒を溶媒浴に循環させ、物品を溶媒浴から取出すことから成る」(第三頁右上欄第一行ないし第一二行)方法であり、また、「本発明の装置は前記した方法を実施するようにしてあり、必須部品として次の如きものを組合わせて成る、すなわち、液体を収容するようにした第一の液だめと、この液だめ内の液体を激しく攪拌し液体中に騒流を生起せしめる装置と、液体を収容するようにした第二の液だめと、第一の液だめからオーバフローする液体を第二の液だめに移送する装置と、上方の相として集積する液体を第二の液だめの上部から取出す装置と、下方の相として集積する液体を第二の液だめの下部から取出す装置と、第二の液だめの上部か下部かいずれかから取出した液体を第一の液だめに移送する装置」(第三頁右上欄第一三行ないし左下欄第九行)を組み合わせて成る基本構成を有する装置であること及び「本発明の方法と装置とにより中実の表面から取除かれる最も典型的な液体は水である」(第五頁右下欄第一四行、第一五行)ことが記載されているものと認められる。そして、前掲甲第四号証によれば、引用例には、その実施態様として記載された第1図と第2図(別紙図面(二)参照)記載の装置に関連して、「第1図と第2図とを参照すると、(中略)水分離液だめ4にはその上部から処理容器1と冷却剤ジヤケツト3の壁を貫通して外方に延びオーバフロー・パイプ6が設けてあり水分離液だめ4内に集積する溶媒と水との混合物の表面にまで昇る水が連続的に取除けるようにする。もし水より濃度の低い溶媒を使用する場合には、もちろん、溶媒は水の表面にまで昇りオーバフロー・パイプ6を通して取除くことができる」(第六頁右下欄第一行ないし第七頁左上欄第六行)ことが記載されているものと認められ、右記載事項によれば、第1図と第2図記載の装置による場合、水分離液だめ4においては、使用溶媒が水に比べて比重が大きいか、小さいかによつて相分離された溶媒の取出箇所が異なるものであり、水より比重の大きい溶媒を使用する場合には、「水分離液だめ4の下部に設けたドレン・パイプ7が水分離液だめ4の壁8を貫通し上方に延び次いでこの壁と平行に、次に水平に、最後に延び、貯槽9に連絡していて水分離液だめ4の底部に集積した溶剤を貯槽9にまで連続的に移送できるようにする。(中略)水分離液だめ4からドレン・パイプ7を経て取出された溶媒は任意に乾燥機10を通し搬送され次いでパイプ11を経て貯槽9に送給されることもできる。」(第七頁左上欄第一二行ないし左下欄第二行)と記載されることが認められることから明らかなように、溶媒は、溶媒に随伴された水と液液相分離された後、水分離液だめ4の底部からドレン・パイプ7によつて取り出され、乾燥機10を経て貯槽9に循環され、再使用されるものであり、一方、溶媒より比重の小さい水の相は水分離液だめ4の上部からオーバフロー・パイプ6を通して系外に排出されるものであることを説明しているものと理解できる。

ところで、審決摘示の記載部分から、「上方の水の層はオーバフロー・パイプ6を経て引出され乾燥機10を通過し次いでパイプ11を経て貯槽9に流入する」との記載だけを取り出すと、水分離液だめ4の上方に集積する水の相を乾燥機10に導入するように理解される。

しかしながら、「上方の水の層はオーバフロー・パイプ6を経て引出され」との記載は、溶媒として水よりも比重の大きい溶媒を使用した場合の水分離液だめ4の操作態様を説明しているものであるが、引用例の第1図と第2図記載の装置による操作において、水より比重の大きい溶媒を使用した場合に水分離液だめ4から取り出され、場合によつては乾燥機10を経て貯槽9へ循環され、再使用される液体として説明されている液体相は、液液相分離によつて水と分離されて水分離液だめ4の底部に集積される溶媒相であり、上方に集積される水の相はオーバフロー・パイプ6から取り出されて系外に排出されるべきものと説明されていることは前述のとおりであるから、第1図、第2図記載の装置構成や引用例の他の箇所で説明されている第1図、第2図の操作態様と明らかに矛盾するものである。

しかも、前掲甲第四号証によれば、引用例には、水分離液だめ4の上方水相をドレン・パイプ6から乾燥機10に通して随伴された水溶性溶媒を回収し、貯槽9に循環するという操作を採択した場合、本来右経路を経て貯槽に循環され、再使用されるべき水分離液だめ4の底部に集積される溶媒相はどのような経路でいかなる処理を受けて貯槽9などまで循環されるのかについての説明は全くないことが認められる。そして、前掲甲第四号証によれば、引用例には、水分離液だめ4で液液相分離される水の相と溶媒相のその後の処置について、次のとおり記載されていることが認められる。第1図と第2図記載の装置の操作に関連して、「水分離液だめ4にはその上部から処理容器1と冷却剤ジヤケツト3の壁を貫通して外方に延びオーバフロー・パイプ6が設けてあり水分離液だめ4内に集積する溶媒と水との混合物の表面にまで昇る水が連続的に取除けるようにする。(中略)水分離液だめ4の下部に設けたドレン・パイプ7が水分離液だめ4の壁8を貫通し上方に延び次いでこの壁と平行に、次に水平に、最後に延び、貯槽9に連絡していて水分離液だめ4の底部に集積した溶剤を貯槽9にまで連続的に移送できるようにする。(中略)水分離液だめ4からドレン・パイプ7を経て取出された溶媒は任意に乾燥機10を通し搬送され次いでパイプ11を経て貯槽9に送給されることもできる。」(第六頁右下欄第一四行ないし第七頁左下欄第二行)、第3図ないし第8図記載の各装置による操作に関連して、「少量の溶媒を随伴して液だめ2の頂部にまで上昇する水の層は壁5をオーバフローして水分離液だめに流入し、この液だめ内では水と溶媒とは別々の層を形成せしめられる。前記の実施態様について説明したように、次いで水は当該系統から取出すことができる。分離された溶媒は前記した同じ型式の循環系統を経て循環され再使用されるが前記した実施態様の場合における如く溶媒浴の表面に送給されずにスプレイ・ヘツド26に戻される。」(第一一頁右下欄第一二行ないし第一二頁左上欄第六行)、第9図と第10図記載の装置による操作に関連して、「水分離液30には、(中略)集積する溶媒と水との混合物の表面にまで昇る水を連続的に取出せるようにするオーバフロー・パイプ33が設けてある。(中略)水分離液だめ30の下部に設けたドレン・パイプ34が(中略)沸騰液だめ36内にまで延び水分離液だめ30の底部に向け集積した溶媒が沸騰液だめ36に連続的に移送できるようにしてある。」(第一二頁左下欄第四行ないし第一五行)。右記載事項から明らかなように、引用例には、いずれの装置の操作についても、水分離液だめで分離される溶媒相については、取り出された後の循環使用態様の説明がされているのに対し、水の相については、装置外へ連続的に取り出す旨の説明がなされているのみで、特にその後の処理についての説明はなされていない。

以上の認定事実によれば、当業者が引用例をみた場合、審決摘示の記載部分のように、乾燥機10を水からのアルコールの回収に使用した場合、上層の水相を乾燥機10に送り、随伴溶媒を回収して貯槽9に循環供給するために必要な装置や操作の具体的な技術内容が不明であり、しかも、底部に集積される溶媒相は、乾燥機10を経由させること自体が任意の操作であるような、水を含まないか、含んでいてもごく少量であると解されるから、かかる少量の水を除くために設置されている乾燥機10が大量の水に随伴されている少量の溶媒を回収するための装置として適用できるものとは技術常識的に考え難く、結局引用例に開示された前記認定の発明の技術的課題、基本的及び具体的構成等に照らし、溶媒と液液相分離された上方の水の層に含まれている少量の溶媒は水相として系外に排出されるものと理解するというべきである。そして、当業者は、右認識のもとに、審決摘示の記載部分を、「水分離液だめ4に集積する溶媒と水とは二つの層に分離し、重い方の層は底に沈む。上方の水の層はオーバフロー・パイプ6を経て引出され『、下方の溶媒の層はドレン・パイプ7を経て』乾燥機10を通過し次いでパイプ11を経て貯槽9に流入する。(後略)」趣旨であつて『、下方の溶媒の層はドレン・パイプ7を経て』との記載を遺脱したものと理解することができ、これによつて引用例記載のものの技術的思想を的確に把握できるものというべく、少なくとも原文のままではその技術的意味は不明なものと理解するということができるから、この記載から審決認定のように、引用例記載のものは「水分離槽において分離されたアルコールを溶解含有する水から、アルコールを分離し、これを脱水域に返戻すること」に該当するとは到底認めることができない。このことは、本願明細書にも、前記1認定のとおり、引用例記載の発明が従来技術として記載され、この従来技術では水分離層から上層として除去される水相は、少量の溶剤成分を随伴している状態でそのまま装置系外に除かれていたものであつたことが記載されており、その水相に随伴されて失われていた溶媒成分を回収、再使用することを技術的課題とし、そのための手段として装置系内に精留装置を組み込み、水相中の溶媒を回収、循環使用する操作を採択した発明を本件出願に先立つて出願(昭和五三年特許願第一四四六二七号)しており、右先願発明が本願発明の基礎となつている旨記載されていることからも肯認することができる。

被告は、引用例の「ドレン・パイプ7を経て取出された溶媒は任意に乾燥機10を通し搬送され次いでパイプ11を経て貯槽9に送給されることもできる」(第七頁右上欄第一四行ないし左下欄第二行)との記載から、ドレン・パイプ7と乾燥機の関係は任意のものにすぎず、オーバフロー・パイプ6が乾燥機に連通する点が引用例に記載されていないとはいえない旨主張する。

しかしながら、引用例の右記載は、ドレン・パイプ7からの溶媒が乾燥機10を経由することもしないことも任意というにすぎないことはその文意から明らかであり、そのことからオーバフロー・パイプ6を乾燥機10に接続するという操作も行い得ることが示唆されているということはできないから、被告の右主張は理由がない。

3 以上のとおりであつて、審決は、引用例記載の技術内容を誤認した結果、審決摘示の記載部分が「水分離槽において分離されたアルコールを溶解含有する水から、アルコールを分離し、これを脱水域に返戻すること」に該当し、引用例記載のものは本願発明の構成事項(b)を特徴とする物品表面の付着水を除去する方法である点で共通したものであると誤つて認定したものであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

非水溶性有機液体から成る洗液を収容していて、物品を浸漬して付着水を除去する脱水槽、及び脱水槽で物品表面から除去した水を比重差によつて洗液から分離する水分離槽を有する脱水域と加熱器を備えた蒸発域とから成り、前記脱水域と蒸発域との上部に連通した空間を設け、この空間を大気に開放し、その開放経路に設けた冷却手段により洗液蒸気を凝縮させ、この凝縮した洗液を脱水域に返戻する装置の、前記脱水槽に付着水を有する物品を浸漬してその付着水を除去するに際し、

(a) 洗液としてトリクロロトリフルオロエタンとエタノールとの混合液を使用すること、

(b) 水分離槽において分離されたエタノールを溶融含有する水から、エタノールを分離し、これを脱水域に返戻すること、

(c) 水分離槽において分離された洗液の一部を蒸発域へ供給すること、及び

(d) 主として蒸気として大気中に失われる洗液を、脱水域又は蒸発域に、トリクロロトリフルオロエタンとエタノールとの混合液であつてエタノールの混合割合が四・五~七・八%(重量)である混合液として補充すること

を特徴とする物品表面の付着水を除去する方法。

(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(以下省略)

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